◆霊場と巡拝の用語辞典

巡拝、順礼などで、最低限知っておくべき関連用語を紹介します。御朱印などを切っ掛けに寺社へ足を運ぶ機会が増えて、次は霊場単位で寺院や神社を訪れてみようと今まさにスタートラインに立った人、あるいは漠然と予定がある人、小難しい用語を見て一度は止めてしまったけれど再度踏み出そうとしている人など、いわゆる初心者の方に向けた内容となっています。とりあえず、これくらい知っておけば大丈夫では?、と思う範囲で選出してザックリと用語の説明を添えています。

※折を見て項目追加、加筆修正していきます。(最終更新日:2019年11月11日)

●あ行

◎打つ(うつ)

「札所」の項目の中でも説明してありますが、昔の巡拝者・巡礼者は、記名した木の札を寺社のお堂に打ち付けてお参りの証としていました。そのことから、札所を打つとは、お寺にお参りすることと同じ意味だと思って大丈夫です。なお、霊場を札所の順番通りにお参りすることを「順打ち」、札所番号を逆からお参りすることを「逆打ち」、札所番号関係なくバラバラにお参りすることを「乱れ打ち」と言います。

◎写し霊場 / 移し霊場(うつしれいじょう)

大元の霊場をコピーして持ってきたという意味なので、「写し」も「移し」もどちらの表記もOKのようで、広く見られます。写し霊場として有名なのは、各地の八十八ヶ所霊場や三十三観音霊場になります。八十八ヶ所霊場の大元は四国、三十三観音霊場の大元は西国になります。交通網の発達した現代とは違い、昔は四国や西国(近畿)に行くまでがそもそも大変なことでした。そのため、各地の人は自分が住んでいるエリアの中で、四国や西国に行ったのと同じご利益を得ようと考え、地域の寺院や神社、集落のお堂や祠、石仏などを見立てて霊場を構成したのです。それが写し霊場というわけです。

◎お礼参り(おれいまいり)

霊場結願の後、再度発願札所へお参りすることを言います。四国八十八ヶ所霊場を第1番札所から順打ちした場合を例にすると、第88番札所にお参りした後で第1番札所に再度お参りすることです。要するに、「道中無事に巡り終えました」という報告をするわけです。なお、四国霊場の場合、お礼参り専用の納経印もあります。

●か行

◎結願(けちがん)

霊場巡拝において、全札所を巡り終えることを結願と言います。なにかしらの願を掛けて霊場巡拝をスタート(発願)したことに対して、ザックリ言えば完遂したということを指します。八十八ヶ所霊場の第88番札所や、三十三観音霊場の第33番札所のことを、「結願所」と書いていたりするでしょう。もちろん、これは第1番札所から順番に巡った場合を想定してのこと。ですから例えば、第四十番札所から発願して巡拝をスタートしたのなら、その人にとっては(順番通りに巡拝したと仮定すれば)第三十九番札所が結願の札所となります。

◎御朱印(ごしゅいん)

昨今、この御朱印がブームになっています。御朱印から寺社に興味を持ち、霊場単位で巡ってみようと思われた人もいるのではないでしょうか。今でこそ寺院は仏教で仏様、神社は神道で神様に、別々のカテゴリーとして手を合わせています。ですが明治時代より昔は神仏習合といって、寺社間に明確な境界は存在していませんでした。そして寺社への納経の証として、御朱印(納経印)が授与されていたのです。現在、お寺はそのままの流れで納経の証としているところもあれば、お参りの証として御朱印を授与いるところもあります。現代の神社には納経の風習がありませんから、お参りの証として御朱印を授与しています。御朱印はあくまでお参りの証、つまりは証明書みたいなものとする人もいれば、そこに神様が宿る、仏様が宿るとする人もおり、それぞれの考え方であって統一されたものではありません。ついでに言えば、御朱印料もまた統一された金額ではありません。さらに言えば、御朱印料のことを神社では初穂料、寺院ではお布施あるいは冥加(みょうが)料と言います。

●た行

◎出開帳(でかいちょう / でがいちょう)

写し霊場と少々似ていますが、本場(大元)まで行けない、でもご利益を預かりたい。人々のそういった願いの下、仏様の方から来てもらおうというひとつのお参りのスタイルです。お寺単位で出開帳を行うこともあれば、霊場単位で行うこともあります。もちろん、数メートルものサイズがある仏像をホイホイ運び出すわけにもいきませんから、出開帳専用の仏像もあれば、御本尊の御姿を描いた軸を用意することもあります。昔は出開帳が布教に加え、一種のお布施集めの意味合いもあったようです。

●は行

◎比定社(ひていしゃ)

例えばAという神社が、創建時からずっと同じ場所、同じ名前で鎮座しているとは限りません。焼失なり移転なり改称なりで、姿形を変えて今に続いている可能性があります。しかしながら、その変遷の歴史が資料として残っているとも限らないわけで。創建時にA神社だったものが今のB神社なのかもしれませんし、C神社やD神社なのかもしれません。「かつてのA神社=今のB神社」を裏付ける資料が存在しない状況なので、B・C・D神社をA神社の候補と推定するわけです。こういった場合、B・C・D神社のことを比定社、または論社(ろんしゃ)と呼んでいます。

◎札所(ふだしょ)

霊場のお寺のことを、「第1番札所」とか「結願の札所」などと記載しているのを目にしたことがあるはずです。なぜお寺のことを「札所」と言うのか。昔の巡拝者は、霊場のお寺にお参りした証として、自分の名前や住所を書いた木の札をお堂や境内の木に打ち付けていました。「お札を納める所」すなわち札所というわけです。近年になり、文化財保護の意識が発達したことでその風習は改まることとなり、例えば四国八十八ヶ所霊場などでは、写経を納める箱とセットで、紙で出来たお札(納め札)を納める箱が設置されています。

◎本尊(ほんぞん)

敬称として、御本尊と表記することが一般的です。霊場巡拝のときに出てくる表記としては、「寺院御本尊」「霊場御本尊(霊場仏・札所御本尊)」「堂宇御本尊」などがあります。寺院御本尊は、そのお寺自体の中心的仏尊のことです。霊場御本尊は、例えば観音霊場だと観音菩薩、不動霊場だと不動明王といった具合の、巡拝対象になる仏様です。堂宇御本尊は、地蔵堂なら地蔵菩薩、聖天堂なら聖天(歓喜天)といった具合に、それぞれのお堂の中心的仏尊のことです。ただ、昨今の廃霊場などでは、例えば観音霊場の札所であっても観音様が焼失や盗難に遭って現存していないケースなどもあるので、御朱印には寺院御本尊名が揮毫されることもあります。

●わ行

◎和讃(わさん)

諸仏や教義、経典について、七五調で歌われる讃歌のことです。お経のように小難しい用語を使うことなく、広く民衆にもわかるような和文で基本的には構成されています。ざっくりと言えば、五七五七七の5節31文字から成るものが御詠歌で、和讃には節・文字数に決まりは無いようです。賽の河原地蔵和讃などは有名でしょう。