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霊場は新たに作るよりも、維持することの方が難しい

とある霊場の、とある札所で寺庭さんから聞いた話です。

その霊場は平成の初期に開創された霊場なのですが、書店には霊場のガイドブックも置かれたり、旅行会社主催の団体ツアーもあったりで、一年中とは言わないまでもそれなりに賑わっている霊場です。新たに開創される霊場よりも廃れていく霊場が多い中、そこそこ参拝者のある霊場なので、知名度も高い部類になるでしょう。そんな霊場ですが、「この先も維持してくのは、なかなか難しいかもしれません」と中の人はこぼされます。

 

そう言われるのも、なんとくなくですがわかります。たとえばちょっと昔に聞いた話になってしまいますが、あの四国八十八ヶ所霊場ですら、経営面で黒字なのは第1番札所と第23番札所のみだそう。地方の、しかも檀家寺院や祈願寺院の札所だと、運営してくのがなかなかに難しいのは容易に知れると言うものです。前述の寺庭さんが言うには、大きな理由は2つあります、と。

 

ひとつは、外からの理由。つまり人が来ないこと。

ポスターを作ったり広告を打ったり、あるいはSNSで発信したりしても、なかなか簡単に人は来るものじゃないそうです。「最近はアート御朱印とかイラスト御朱印とかで、地方のお寺や神社も賑わっているじゃないか」との意見も聞こえてきそうですが、霊場単位で活動している札所の場合、抜け駆けみたいな形で奇抜なことをするわけにはいかないのです。

 

次いで、内からの理由。つまり霊場を維持する気がないこと。

霊場の開創から年月が経ち、札所寺院も住職の代が替わります。開創に携わった住職が参拝者のことを受け入れる気持ち、また先人が作った霊場を残したいとの意思を持っていたとしても、次の代の住職が必ずしも同じ考え方を持っているとは限りません。(もっと言えば、そもそも後を継ぐ住職がおらずに無住寺院の札所になることもあります。)私自身が実際に御朱印や納経印を求めたとき、対応で出てきた若い住職から、さも面倒臭そうに対応されたことは、決して一度や二度ではありませんから。

 

そうそう、余談ではありますが、昨今は大正大学などのいわゆる坊さん専門の学校を出て、お寺に入るケースが減っているのだとか。これまたとある札所の住職から聞かされたのですが、早稲田大学とか日本大学とか学部学科も仏教とは無縁のところを出て、数年は一般企業で働いた後、お寺で勉強して坊さんになる若い後継ぎが増えているのだとか。「そういったある種の我がままを認めないと、後を継がないって言い出されて・・・」ってところらしいです。う~ん、色々と難しいものですね。

 

いずれにしましても、こういった霊場のホームページを立ち上げたくらいですし、私としては受け継がれ、引き継がれていって欲しいとは思っています。ただし、「住職も神職も生活が掛かっている」と言われてしまいますと、そうですよねぇ・・・としかこちらは言えないわけで。なんとも難しいものです。